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《ワーグナー「ローエングリン」鑑賞の日》

  • 5月30日
  • 読了時間: 4分

会員によるブログ、2026年5月は中館先生です。



140年のメトロポリタン歌劇場の歴史の中で、ローエングリンはワーグナー作品の中では最も上演回数の多い演目だそうです。

老々介護の日々となったこの頃は海外には行けず、メトロポリタン歌劇場が配信している映画に切り替え、このオペラも3年前の春、映画で鑑賞しました。ワーグナーは高校時代から大好きな作曲家で、大学生になってからは、ライトモチーフを覚えて上野に一人で聴きに行き楽しんだものです。しかも大学からリトミックの道を歩んできた私にとっては、さらにその興味は深くなり、ワーグナーのバイロイト様式、新バイロイト様式に導いたアッピア、アッピアから三次元の影響を受け音楽空間を創造したダルクローズの芸術思想の流れを実感しております。


ワーグナーとアッピアについて、ここで少しお話して先に進めたいと思います。

ワーグナーはギリシャ悲劇の三位一体思想やショーペンハウアーの音楽観から啓示を受け1876年8月バイロイトの “ニーベルンクの指輪”でスタート、独自の総合芸術論を具現化しています。しかし、照明と演技の間の不調和を感じたA.アッピアは「いかにして三次元的俳優の存在を二次元的舞台装飾から解放するか」という課題を掲げ、舞台美術家として出発。彼は自らの演出ノートをコジマに送り直訴しましたが、孫の代まで、それは伏せられたままとなります。A.アッピアの演出プランとは、あくまでも作曲された音楽である総譜を基盤し、ワーグナーが伝えたかった楽劇の全て、肉体と霊魂、音楽、歌詞、視覚形式を含んだものでした。


アピアの亡き後、ワーグナーの孫ヴィーラントとヴォルフガングの代になって彼の舞台理論は復活します。総譜を基盤としたアピアの理念を理解したヴィーラントは「ワーグナーの作品の諸理念は、永遠の人間性に基づいているのだから、時代を超えて通用する。この核心からこそ、作品はワーグナーが総譜の中で未来の世代に課題として残した形象文字や暗号を解読することによって常に新しく形象化されねばならないだろう」と。

さらにそのことはジョフリー・スケルトン著で示す1955年のバイロイト音楽祭の冊子で明らかにされています。

「音楽と三次元的感覚に基づく様式化された空間での色彩の象徴的能力という概念―これは、スイスの舞台美術家アッピアがその著書『音楽と演出』において追及し、今世紀はじめ、ワーグナーのデザインにおいて創造したものである。この達成は、オペラ演出の変革への第一歩であり、やがて論理的に『新バイロイト様式』へと導くものであった。」と。


このようにワーグナーのオペラを新バイロイト様式に導いたアッピアはダルクローズの音楽空間にも大きく影響を与えていることを知った時に、私は大きな衝撃を受けました。そして、益々ワーグナーやアッピアの芸術思想を知りたいと思ったのです。


それでは、ワーグナーのローエングリンに戻ります。

ワーグナーと言えばライトモチーフが特徴ですが、「ローエングリンの音楽的特徴はワーグナー楽劇過渡期の作品でまだライトモチーフの活用よりは調性と和声が重要であったようで、ハインリヒがハ長調、ローエングリンがイ長調、エルザが変イ長調というように。」と指揮者のセガンが鑑賞者のために解説していました。同じワーグナーでも作曲様式が少しずつ変化していくことを忘れてはなりませんね。セガンの鑑賞者への配慮に感謝でした。


さらに、舞台芸術思想の具現化という点からですが、この舞台上で幾つもその表現法が使われており、その度に心が躍りました。例えば、ルソーの共同体=群衆の概念の具現化の例として、 合唱とダンサーの袖の長い衣裳を使い、両腕を広げたときに衣裳の内側の色を白、赤、黒、緑に変えられるようになっており、場面によって群衆の衣装を瞬時に変化させ、心理描写していたことです。


他には、舞台は中世的な雰囲気を感じましたが、演出家や美術担当の解説によれば、未来の地球をイメージしたものだそうです。その感じ方の違いにも、なるほどと思いました。

歌い手の感じ方は人それぞれだと思いますが、ローエングリンのピョートル・ベチャは勿論のこと、エルザのタマラ・ウィルソンは初めてのワーグナーにも拘らず、そのリリックソプラノが適役でした。オルトルートのクリスティン・ガーキーも魔女的演技を含めて素晴らしいワーグナーの歌い手でした。衣裳については、皆中世的な衣装に対し、ローエングリンだけが白いシャツと黒のズボンという現代人をイメージさせていました。それは「ローエングリンは異世界から来た人間であるから」との説明でしたが、私には納得できなかった点です。

「ローエングリン」は初めてでしたが、素晴らしいワーグナー作品をもっと深く鑑賞できたら、という想いと、改めてダルクローズのリトミックを芸術的音楽空間に導いたアッピアの存在の大きさにも触れることのできたワーグナーの作品鑑賞の日でした。



 
 
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